あしたば法律日記

船橋の ”あしたば法律事務所” の弁護士が、皆さんに身近な法律をテーマに語ります

「あてはめ」って何だ!? ~司法試験受験生のために

先日、母校の学生さんたちと話す機会があったのですが、そのときに話し忘れていたことがあったので、ちょっといつもと趣向を変えて、試験勉強向けの記事を書きます。

 

今日は、「あてはめ」は大事だよ、という話です。

論文試験の答案では、事実に即して問題提起をして、その問題を判断する基準(規範)を定立して、事実を先の基準にあてはめて、結論を導きます。

その「あてはめ」については、

・問題文から事実を抜き出してくる

・有用な事実をたくさん拾う

といったことは、ある程度、共通理解ができていると思います。

でも、いまひとつ、という受験生によく見られることで、上記の点より指摘されないことがあります。

それは、「拾った事実を評価する」という視点です。

 

たとえば、刑訴の問題で、任意捜査の限界が問われたとしたら、

「必要性、緊急性を考慮したうえで、具体的状況のもとで相当と認められる程度の有形力の行使」かどうかという基準につき、事実をあてはめることになります(最判昭和51年3月16日参照)。

ここで、「司法警察職員Aが甲を職質中に、甲のカバンが開いていて、ノコギリみたいな刃が顔をのぞかせていて、Aが甲を現認したのがアイドルグループの握手会会場付近で、しかも甲が『急いでるんで』といって会場に入って行こうとした際に、Aが『待って』と甲の左肩をつかんだ」という事実があるとしましょう。

このときに、問題文から事実を抜き出すことだけ考えていると、「ノコギリみたいな刃が顔をのぞかせていて、司法警察職員が甲を現認したのがアイドルグループの握手会会場付近で、しかも甲が『急いでるんで』といって会場に入って行こうとした」ため、「必要性、緊急性が認められる。」とか書いてしまう人がいます(そんなバカな!という人もいるかもしれませんが、試験になるとついやっちゃってる、という人が結構います)。

でもこれだと、採点官に伝わりません。

当該事実が「必要性」や「緊急性」の有無にどう影響するのか、という評価が必要なんです(前掲の最判がそれをやっていないんですが・・・)。

食材(事実)を下ごしらえ(評価)しないで、煮るだけ煮て(あてはめ)、はいどーぞ!だと岸朝子先生や土井善晴先生に怒られるのと一緒です。

例えば、「握手会会場付近で、そこでの用途が全くないと思われるノコギリ様の物を見つければ、他害目的であることが推認されるので、その場に留め置いて話を聞く必要性が高い」とか、

「ここで甲を解放すると、すぐにでも甲が握手会会場に入ってしまうおそれがあり、そうすれば人ごみの中で甲を確認することが難しくなり、具体的な危険が生じた段階で甲を止めることができなくなるので、緊急性が高い」とか、

ここまでくどく書くかは別として、「拾った事実を評価する」というのは、このように事実とあてはめの橋渡しをする、ということなのです。

これがなかったり、足りなかったりすると、論理が飛躍していると思われてしまい、点数が入らないおそれがあります。

評価の部分は、自分で表現を考えなくてはならないので、時間を取られると思いますが、その分努力が伝わるところだと思いますので、気をつけておいてほしいです。

 

それでは、試験大変ですが、頑張ってくださいね!